福島家庭裁判所会津若松支部 平成2年(家)430号 審判 1991年1月28日
申立人 小和田健二
相手方 木戸尚子
事件本人 小和田佑介
主文
本件申立てを却下する。
理由
第1申立の実情
1 申立人と相手方とは、昭和61年4月17日婚姻したものであるが、当事者間に不和が生じ、平成元年11月6日離婚し、その際事件本人の親権者を母である相手方と定めた。
2 しかし、相手方は事件本人の親権者としての監護・養育の意思、能力に欠けていたため、申立人は平成2年2月23日、当庁平成2年(家イ)第34号親権者変更事件をもって調停の申立てをし、平成2年4月17日親権者を申立人に変更するとの調停が成立した。
3(1) 申立人は平成2年5月2日、事件本人とともに相手方の実家付近で買物をしていたところ、事件本人が一人で相手方の実家宅に行ってしまった。
(2) そのため、申立人は同日午後8時30分頃に事件本人を引き取るべく相手方の実家に赴いたところ、相手方の実父は引き取りに応じなかった。
(3) その後、申立人は相手方と何度か交渉をしたが、事件本人に会わせて貰えず、相手方の実父は「事件本人は養子でも出した方がいい」と平然と言い放ち、また、相手方も自己中心的な性格で事件本人の監護・養育等を望むことはできない。
(4) なお、申立人は現在も事件本人の親権者であり、同人を養育していく十分な資格がある。
4 よって、相手方が事件本人を申立人に引き渡すことを命じる旨の審判を求める。
第2当裁判所の判断
1 申立人の申立てにより当庁平成2年(家イ)第72号子の引渡調停申立事件として係属したが、平成2年12月18日に開かれた第1回の調停期日において、相手方は到底調停に応じることはできないとの態度に終始し、また、申立人も事件本人の養育については譲歩する姿勢を全く示さなかったため不調となったものであって、なお、同事件に添付された申立人を筆頭者とする戸籍謄本によると、事件本人の親権者が現在申立人であることは明かである。
2 ところで、平成2年(家ロ)第301号親権者の職務執行停止・職務代行者選任申立事件における申立人・相手方双方に対する審問の結果、家庭裁判所調査官の調査報告書、その他一件記録によると、
(1) 申立人は、事件本人の親権者となる以前である平成2年2月頃から事件本人を事実上引き取り養育を始めたが、その意図は離婚をした相手方の気持ちを惹付けようとしたものに過ぎず、同意図が成功しないと分かると事件本人に対する養育の熱意を失い、その後は○○○○市内の医師を媒介として里子に出そうとしたり、同年3月上旬には、山梨県内の夫婦との里子の話を進展させる等の行動を示していたこと、そして、申立人は親権者変更の調停成立よりおよそ半月前である平成2年3月下旬頃には、○○○○福祉事務所を訪れ、養育困難を理由として事件本人を施設に入所させようとしていたほか、事件本人の首に相手方の写真と電話番号を書いた紙をぶら下げさせ、再三相手方宅へ寄越していたこと、さらに、申立人は親権者変更の調停が成立した平成2年4月中旬頃は、事件本人を自転車に乗せ○○○○市内をふらつく状態であり、事件本人の心を無視した無計画な申立人の行動を心配した○○○○市福祉事務所の係員から申立人は忠告を受けていたがこれに耳を貸さず、同係員が事件本人の母である相手方に対して児童相談所に保護してもらうよう促す事態にまで至っていたこと、
(2) 他方、相手方は平成2年3月30日、○○○○市福祉事務所の係員から事件本人の施設入所に関する意見を求められた際には、事件本人の入所については申立人の希望どおり進めてほしい旨の意向を示すにとどまり、事件本人に対する養育意欲を示さなかったが、その後態度を軟化させ、やがて、平成2年5月2日事件本人が相手方の実家に一人で来た際に、事件本人を申立人の手元に置くと、精神的・肉体的疲労を増大させるばかりで保護に欠けると考え、従前の態度を改め事件本人を引き取り養育を開始するに至ったこと、事件本人を養育している相手方は、住所地付近の会社に事務員として稼働し、1か月17万円程度の収入を得て、母一人・子一人の生活としては経済的に安定していること、事件本人は現在母である相手方とともに相手方の実兄夫婦のもとに寄宿し、毎日保育園に通園し、夕方迎えにきた母とともに帰宅する生活をしており、相手方との現在の生活環境にもなれ、健康を害することもなく、母子間の交流についても取り立てて問題とすべき支障は生じていない状態にあること、
以上の事実を認めることができる。
3 上記事実から明らかなように、申立人は事件本人を引き取り養育している当時においては、親権者としてはおよそ了解することができない問題行動を示していたものとみることができる。他方、事件本人が相手方に引き取られた後においては、母子間の交流が生じ精神的に安定した環境のもとで生活をしており、また、経済的にも不安はないことからすれば、事件本人の監護養育を相手方のもとで行うことが事件本人の福祉に添うものと言うべきものであって、現在申立人が親権者であったとしても、当裁判所は、相手方の申立てにかかる当庁平成2年(家)第355号親権者変更事件において、親権者を父である申立人から母である相手方に変更すべき旨の審判をしており、ともかく事件本人の引渡しを求める必要性はないから、申立てを正当なものとして認容することはできない。
よって、主文のとおり審判をする。
(家事審判官 井上稔)